クライアントは、国内有数のD2C統合支援プラットフォームを提供し、多数のブランドECを横断的に運用しています。
対象システムは、販促キャンペーン、在庫引当ロジック、外部決済API連携、OMS・WMSとのデータ同期など、複数ドメインが密結合した高複雑性アーキテクチャで構成されていました。
しかし導入前は、これらの複雑な仕様を横断的に理解し、テスト観点に落とし込めるQA人材が不足しており、テスト設計は画面単位の動作確認レベルに留まっていました。その結果、条件分岐(クーポン併用・在庫閾値・決済ステータス遷移など)に起因するエッジケースの不具合が本番環境で顕在化するケースが多発していました。
さらに、仕様理解や影響範囲分析が特定のエンジニアに依存しており、機能追加・改修のたびに属人的な判断が必要となることで、リリース判断の遅延や品質のばらつきが発生。結果として、開発スピードと品質のトレードオフが常態化していました。
当社は、単なるテスト実行ではなく、テスト設計プロセスそのものの再構築に踏み込んだECドメイン知識とテストエンジニアリングを融合した「EC特化型QAラボ」の構築を提案しました。
まず、既存仕様のブラックボックス状態を解消するため、業務フロー・状態遷移・データ依存関係を分解し、「テスト観点図」「状態遷移図」「業務シナリオベースのテストケース」として再定義。これにより、仕様理解とテスト設計を分離せず、一体化したナレッジ基盤を構築しました。
次に、自動化戦略としては「変更頻度 × ビジネスインパクト」で優先度を定義。ログイン、カート、決済、注文確定といった基幹フローに対してはE2Eテストの自動化を実施し、CI/CDパイプライン上での回帰テストを常時実行可能な状態を整備しました。
さらに、ラボ型体制によりプロダクトへの継続的な関与を前提とし、スプリント単位でテスト観点・自動化対象・不具合傾向をレビュー。短期的な品質改善ではなく、中長期での「品質資産の蓄積」を実現する運用モデルを設計しました。
プロジェクトは、QAリーダー2名、QAエンジニア7名、自動化エンジニア4名、通訳1名の大規模専属ラボである計14名体制でスタート。スクラム開発と並走する形でQAプロセスを組み込みました。
初期フェーズでは、過去の障害ログ・問い合わせデータを分析し、「不具合発生パターン(例:特定条件下での在庫不整合、決済ステータス不一致)」を体系化。これをもとに、デシジョンテーブルや状態遷移ベースのテストケースを設計し、網羅性と再利用性を担保したマスターテストケース群を構築しました。
自動化フェーズでは、SeleniumやPlaywright等を用いたE2Eテストを中心にスクリプトを実装し、CI環境(Jenkins等)と連携。プルリクエスト単位での自動テスト実行および結果可視化(レポーティング)を実現しました。
また、ベトナム側チームは受動的なテスト実行に留まらず、「この仕様であればこちらのパターンも確認すべきではないか」といった能動的な提案を日々実施し、仕様レビューや改善提案にも積極的に関与。「仕様上想定されていない組み合わせ」や「将来的に不具合リスクとなる設計」を指摘し、上流工程へのフィードバックループを形成しました。
本取り組みにより、リリース後の重大障害発生率は大幅に低減し、特に複雑な条件分岐に起因するバグの再発防止に成功しました。テスト自動化カバレッジは50%以上に到達し、従来数日を要していた回帰テストは数時間単位まで短縮され、クライアントは自信を持って新機能の市場投入を行えるようになりました。
テスト自動化のカバー率が50%を超えたことで、リグレッションテストに要していた期間が大幅に短縮され、開発チームはリリース判断における不確実性を大きく低減でき、結果としてリリースサイクルは約1.5倍に高速化。継続的デリバリーに近い運用が可能になりました。
加えて、最大の成果は「仕様の可視化」で、仕様・テスト観点・不具合知見が体系的にドキュメント化されたことで、新規参画メンバーの教育コストとなるオンボーディング期間は従来比50%以上短縮。属人化していたナレッジが組織資産へと転換され、スケーラブルなQA体制が確立された点が大きな成果です。
クライアントからは「単なる外注先ではなく、共にプロダクトの成長を支えるQA部門の一部」として深い信頼を得るに至りました。
今後は、構築したテスト資産をベースに自動化対象範囲をさらに拡張し、APIテストやパフォーマンステスト領域への展開も視野に入れていきます。また、テストデータ管理やモック環境の整備を進めることで、より高速かつ安定したテスト実行基盤を構築します。
加えて、品質メトリクス(バグ検出率、テストカバレッジ、リードタイム等)を継続的に可視化し、開発KPIと連動させることで、品質を経営指標の一部として扱う体制へと進化させ、これにより、コスト最適化とプロダクト価値向上を両立する持続的なQAモデルの確立を目指します。
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